東京都品川区の小児科医区議会議員が、小児科外来最前線からみた品川の小児医療、子育て支援について語ります。
 平成10年以来、我が国の自殺者は年間3万人を超え、国も平成18年に「自殺対策基本法」を制定し、自殺予防は社会全体で取り組む課題だと宣言しました。その取り組みの成果もあり、自殺者はまだまだ多いですが、年間26000人まで減少してきました。

 一方、未成年者の自殺は、警察庁の統計によれば自殺全体の2%ほどですが、15~34歳の死因第1位であり、しかも未成年者の自殺のみ減っていないのです。

 そのため、文部科学省も平成21年に「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」、平成22年に「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」、平成26年には「子供に伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引」を相次いで公表し、子どもの自殺予防に向けた学校現場での取り組みの強化を求めました。

 子どもに自殺の危機が高まった時、その絶望的な気持ちを打ち明けるのは、親や教師ではなく、同世代の友人が圧倒的に多いことを踏まえて、教師や大人だけでなく、むしろ子どもにこそ、自殺予防教育を行うことの重要性が認識され、取り組みが始まっています。

 文科省の「子供に伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引」では、自殺予防教育では、早期の問題認識(心の健康)と、援助希求的態度の育成が必要だとされています。

 すなわち、心の変調に早く気付き、自己を肯定する。心の危機は誰にでもあり、乗り切れる方法があることに気づく(早期の問題認識)。
 援助が必要な友人がいるときは、躊躇なく信頼できる大人に連絡する(援助希求的態度の育成)。

 これを子どもに学ばせることが自殺予防教育であり、その展開例としてA市での取り組みが「手引き」で紹介されていますが、このA市こそ今回私たちが視察した名古屋市だったのです。

 名古屋市はまさに文科省の手引書に忠実に、精力的な自殺予防教育を全小中学校で展開しています。また、名古屋市教育委員会子ども応援室には、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、スクールアドバイザー、スクールポリスの4種類の専門家スタッフから構成された「なごや子ども応援委員会」が組織され、11のブロックに分かれてさまざまな活動を行っています。 また、地域のさまざまな催しでも、自殺予防の啓発を精力的に行っているのだそうです。

 私は先の一般質問の準備をする中で、文科省の一連の手引きを読んで、具体的でしっかりした内容だと思いましたが、実際に手引き通りに自殺予防教育を行った時の、その手ごたえ、子どもの反応、教師の反応を知りたいと思いました。

 いくらすばらしい手引きでも、子どもに響かなければ、実際に自殺の危機を乗り越える子どもが出なければ、現場を知らない、笛吹けど踊らない、ただの机上の空論になってしまうからです。(私は現場の小児科医として、このような例をたくさん見てきました。)

 教育委員会の説明の後の質疑応答で、私から実際の授業の後の生徒の反応、授業に取り組む教師の反応について、質問しました。
 また、配布資料の中に校内研修や授業の後の教師に対する聞き取り調査の結果もありました。

 質問の回答はおおむね聞き取り調査の結果と同じお答えでしたが、これだけ精力的に先進的に自殺予防に取り組んでいる名古屋市にしてこの程度か、と思われる感想も混じっていました。全てのスタッフが熱意をもって、全員一致で課題に取り組むことは、やはり大変なことなのだと改めて認識しました。

 自殺未遂や既遂が1件あれば、強い絆のあった周囲の最低5人は深い心の傷を負うといわれており、また、豊かな未来を自ら閉ざし、命を絶つという「自殺に追い込まれる」悲劇は、何としても食い止めなければなりません。

 献身的に活動されている名古屋市の担当の方々にエールを送ると共に、また体系的な自殺予防教育が始まっていない品川区も、早急な取り組みを始めることが必要だと痛感しました。

 11月1日のうちに近鉄線で奈良市から京都市に戻り、さらに新幹線で名古屋市まで移動しました。

 11月2日は宿泊ホテルから名古屋市役所に向かい、市役所で名古屋市教育委員会指導室藤井指導主事から「学校教育における自殺予防について」の説明を受けました。また、名古屋市健康福祉局障害企画課の担当者も同席されました。



 名古屋市も品川区と同じく、平成25年7月に中学生の自殺者(名古屋では、自死者と呼ぶのだそうです)が出ています。それ以降、名古屋市は自殺予防に向けた精力的な取り組みを行っているようです。

 実は私も、今年5月の本区の女子中学生の自殺を痛切に受けとめ、二度とこのような痛ましい事例が起きないように、9月の品川区議会第3回定例会一般質問で、自殺について取り上げたばかりでした。そのため、今回の名古屋市の視察には大きな関心がありました。

 名古屋市は、平成26年7月に名古屋大学教育発達科学研究所久保田由紀教授を招いて、自殺予防講演会を行い、自殺予防教育の必要性を改めて認識したのだそうです。しかし、50%の学校が自殺予防教育を行っていないことがわかりました。

 そこで、平成27年6月から、久保田教授の指導のもと、健康福祉課、子ども青少年局、教育委員会、愛知県臨床心理士会が協力して、「気づいてる?こころのSOS」という自殺予防啓発パンフレットを作成し、児童・生徒に配布し、自殺予防教育をおこなう教職員用の解説書も作成し、各小中学校で自殺予防教育を積極的に行なう準備をしました。

 平成28年4月には「ゲートキーパー読本」「うさじの気づき・傾聴ハンドブック」を全教員に配布し、自殺予防に関する校内研修を名古屋市全校で実施し、さらに自殺予防に関する校内研修資料を教務主任が中心になって作成し、小学校、中学校で授業を実践したのだそうです。



 先行的に自殺予防教育を行った中学校(校長先生が臨床心理士の資格もお持ちだそうです)が、平成27年12月に朝日新聞ローカル版でも報道されたそうです。(続く)

 次に竹原飛鳥小学校長が「飛鳥コニュミティ・スクール協議会」について、お話しされました。この校長先生はさすがは校長と唸らせる、吉本芸人にも勝るとも劣らない、すばらしい話術の持ち主で、思わずお話に聞き惚れてしまいました。

 飛鳥中学校区は飛鳥小、飛鳥中、飛鳥中学校区全てがコニュミティ・スクールに指定されている、奈良市でも先進的な学区にあたります。

 視察会場となった教室には、学校運営協議会の役員の方、地域教育協議会のコーディネーターの方も出席されていました。



 校長先生は、飛鳥コニュミティ・スクール準備委員会の立ち上げからお話しをされ、防災教育という手段で学校と地域が繋がったこと、職場体験学習発表会などの活動を積み上げていったこと、小中合同コニュミティ・スクール準備委員会をコニュミティ・スクール準備委員、保護者、教員で「熟議」しながら、進めていったことなどを話されました。

 また、学校評価にPDCAサイクルを用いていることや、地域コーディネーターと生徒会が合同会議を随時行うこと、コーディネーターが中学3年生と面接を行うことなど、興味深い話題もありました。

 校長先生のお話の後、質疑応答に移りました。
 他の文教委員からもいろいろな質問が出ましたが、私からこの会に参加していただいた学校運営協議会の役員の方、地域教育協議会のコーディネーターの方全員に、コニュミティ・スクールの活動を続けて、苦労をしていること、率直な活動への自己評価など、一言コメントをお願いしました。

 いろいろな感想や意見、演説も飛び出し、それぞれのお答えは非常に興味深かったですが、全員の方から学校や生徒に対するなみなみならない深い愛情が感じられ、感動しました。

 学校だけでさまざまな問題を解決することはとても不可能な時代になってしまいましたが、学校に対する深い愛情を持って、献身的に支援してくださる地域住民がいる学校は、新しい可能性と飛躍が十分期待できるのではないかと強く思いました。

 昼食をはさんで、午後は奈良市立飛鳥小学校を訪問し、実際のコニュミティ・スクール活動について調査を行いました。



 最初は、奈良市学校教育部学校教育課坂本主事から、奈良市のコニュミティ・スクールについての説明を受けました。

 コニュミティ・スクールとは、学校と保護者、地域住民がともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら、子ども達の豊かな成長を支え、地域とともにある学校づくりを進める仕組みだそうです。



 そのために、学校と保護者、地域住民などから組織される学校運営協議会が設置され、この協議会は校長が提出する学校運営の基本方針を承認したり、意見を述べたり、教職員の任用に関し、教育委員会に意見を出すことができます。

 この学校運営協議会委員(コニュミティ・スクール委員)には、PTA役員などの保護者、自治会役員や地域教育協議会(地域コーディネーター)などの地域住民、校長、教頭や他の教職員、学識経験者などが教育委員会によって、委嘱され、任命されます。

 そしてこの学校運営協議会が設置された学校が、学校運営協議会設置校(コニュミティ・スクール)に指定されるのだそうです。

 奈良市のコニュミティ・スクール指定校は、46小学校、21中学校のうち、まだ11校しか指定されていません。

 奈良市としては、学校ごとに作り、学校運営に地域住民の声を反映させる学校運営協議会と、午前中の地域で決める学校予算事業で登場した、21の中学校の学区ごとに組織されている、地域教育協議会(学校支援地域本部。地域住民による学校支援活動を円滑に行う組織)を、車の両輪として「地域とともにある学校づくり」を進めたいとお考えのようですが、現実にはなかなか順調に学校運営協議会の設置が進まず、苦労されているようでした。(続く)

 11月1日は京都市から近鉄線で奈良市に移動し、まず市役所で「地域で決める学校予算事業」について、奈良市教育委員会地域教育課の大西主任から説明を受けました。



 この「地域で決める学校予算事業」とは、地域全体で子どもを育てる体制を作り上げ、子ども達の教育活動の充実を図るとともに、地域の教育力の再生と同時に地域コニュミティの活性化を図ることを目標とした事業ということでした。

 「地域で決める学校予算事業」の内容は、各中学校の学区(中学校区)ごとに、地域教育協議会(地域住民が学校の支援を行うためにボランティアで集まった任意団体で、学校支援地域本部とも呼ばれるようです。)が地域や学校の実態に応じた教育活動を展開するために、市に事業計画書を提出します。この事業計画書には、この校区(地域)の小中学校、幼稚園保育園で行いたい事業の要望をもとに作成されるのだそうです。

 予算額が決定されると地域教育協議会は、各学校、各園から上がってきた事業計画書をもう一度協議し、それぞれの学校園に最終的に予算配当を決めるのだそうです。
 活発な事業を行っている学校園には、予算配分が多くなり、これが地域の教育力を高めることにつながるという説明でした。

 そして、その実際の事例として、奈良市飛鳥小学校の視察に行きました。(続く)

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  奈良市役所1階ホールには、巨大な平城京復元模型が展示してありました